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特定非営利活動法人  子育て応援・ペンギンくらぶ

「バリア」のない子育て環境を目指して(月刊「福祉」2004年9月号掲載)

※この原稿は、月刊「福祉」2004年9月号掲載の原稿に、著者が加筆したものです。

「子育て応援・ペンギンくらぶ」発足の経緯

住宅街にある、決して広いとは言えない道路を、子どもと散歩中、すぐ隣を猛スピードの車が、排気ガスを巻き上げながら走り抜けていく。子育てを経験した方なら、一度や二度は、このような危険な体験をしたことがあるのではないだろうか? また、買い物中、授乳やおむつ替えが必要になり、授乳のためのスペースや、トイレにベビーベッドを探し求めた経験を持つ方も多いだろう。 「子育て応援・ペンギンくらぶ」は、そうした子育て中の様々な社会の不便(バリア)を解消し、誰もが安心して子どもを育てられる環境づくりを目指して 2000年2月、テレビドラマ「水戸黄門」でお馴染みの茨城県水戸市に誕生した。発足当時のスタッフは、育児中の男女のほか、子育てを終えた方、独身の方など14名。各々がそれぞれの立場で、現代の子育て環境と向き合い、できるところから活動を始めた。現在は水戸市のほか、隣接するひたちなか市、日立市、土浦市で、子育て支援の事業を行っている。 ところで、なぜ「ペンギン」なのかと言えば、ご存知のようにペンギンは、産卵後、オスとメスが代わりばんこに卵を温め、生まれてからも両親でヒナをお腹の下に入れて育てる。こうしたペンギンの子育ての姿を手本に、私たち人間も、育児を母親だけに任せるのではなく、父親も積極的に育児に参加してほしい。社会もまた、男女が共に働きながら、楽しく子育てができる環境づくりに力を入れてほしいという願いを込めて名付けた。

子育て中のスタッフが企画・開催する保育付き講座や、子育て情報の発信

発足して4年。 現在のスタッフは約30名。 ほとんどが20代〜40代の子育て中の母親であるが、中には、子育て中の父親や、子育てを終えた人も含まれている。 スタッフは、大きくイベントグループと情報誌グループに分かれ、主に、次の4つの事業を行っている。
1.子育て環境の調査と提案
2.保育付き講座やコンサートの開催
3.子連れイベントの開催
4.子育て情報の発信
1については、後ほど詳しく説明をしたい。2の「保育付き講座やコンサートの開催」、3の「子連れイベントの開催」、4の「子育て情報の発信」を先に紹介しておこう。
まず、2と3であるが、こちらはイベントグループが担当する。内容としては、テニスや英会話、料理などの保育付き講座を定期的に開催。また、未就学児を抱えていると、なかなかコンサートに入場できないことから、保育付きのジャズやクラシックコンサートを開いている。 2002年6月から毎年開催している保育付き講座「子どもの絵本を探そう」は、参加者から「たくさんの絵本を紹介いただき、絵本選びが楽しくなった」「絵本の素晴らしさを再確認できた」など、好評の声が寄せられる人気講座の一つだ。この他これまでに、未就学児の子どもとその保護者が集まって工作や野外活動を行う「サタデーキッズ」、子ども連れで本格的なコースディナーを味わう「親子deディナー」など、毎月2〜3本ずつ、多彩なイベントを開催してきた。
4の「子育て情報の発信」は、主に情報誌グループが担当。3ヶ月に1回、子連れで出かけたい公園や、子連れにやさしい美容室やスーパー、飲食店などを紹介する「子育て応援情報誌 ペンギンくらぶ」を発行している。さらに、2003年度は、独立行政法人「福祉医療機構」から助成金を受け、「いばらき子育て支援情報誌ファミーユ」を2冊発行した。また、茨城県内(主に水戸市やひたちなか市、日立市周辺)にある非営利のサークル活動を紹介した「育児サークル情報誌」を毎年作成し発行。これらの情報誌は、県内の公共施設等で無料配布している他、情報はインターネットのホームページ(http://penguinclub.pupu.jp/)でも見ることができる。 こうした講座やイベントの企画、情報誌の取材・執筆などは、主に子育て中のスタッフが考え、イベントなら講師との交渉、開催場所の確保、場合によっては材料の買い出し、当日の係員までをスタッフが交代で行う。もちろん子連れで、である。スタッフの一人は、「子育て中の自分たちがやりたいことを講座として開催したり、知りたいことを取材して情報誌に掲載する。初めての取材はとても緊張するが、行政や企業が用意してくれたものに乗っかるだけでなく、自分たちがほしいと思うものを、自ら行動し手に入れていく。子育て中も社会に参加し、社会とつながることで、育児とはまた違った喜びを得ることができる」と話す。 ペンギンくらぶは、会員(約400名)をはじめとする育児中の人たちに、様々な子育て支援情報を提供すると同時に、スタッフにとっては、自己実現を図る「舞台」の一つになることも視野に入れている。「子どもがいるからできない」ではなく、「子どもがいるからこそできる」ことを、これからもスタッフとともに続けていきたい。

子連れで外出しやすい環境を目指して「ベビーカーでウオッチング」を開催

 1の「子育て環境の調査と提案」だが、代表的なものに「ベビーカーでウオッチング」がある。文字通り、乳児をベビーカーに乗せて、まちの中のどの部分がベビーカー、あるいは子連れで利用しにくいか等をウオッチングするものだ。これまでに水戸市内の百貨店3カ所、大洗町のアクアワールド大洗(水族館)、ひたちなか市の国営ひたち海浜公園を視察し、百貨店、あるいは施設の担当者と意見交換を行ってきた。今回はこの中から、国営ひたち海浜公園を2度にわたり視察した際の様子を詳しく紹介したい。 国営ひたち海浜公園の視察は、同公園工事事務所の担当課長(当時)から「公園内に新しく、授乳室とおむつ替えスペースを配した「赤ちゃんルーム」を整備することになった。ついては、子育てをされている方々の意見を聞き、利用しやすい赤ちゃんルームをつくりたいと考えている。協力してもらえないだろうか」と連絡をいただいたのが始まりだ。当くらぶとしては即OK。1回目は赤ちゃんルーム建設前の2002年11月、2回目は完成後の2003年3月に実施した。 まず、建設前のウオッチングは、今にも雨が降り出しそうな肌寒い日であったにもかかわらず、約30名の親子が参加した。公園スタッフの案内で、園内のトイレや食堂、遊歩道などを見学した後、事務所内の会議室で担当者と意見交換。参加者からは、「ベビーカーの場合、食堂などの出入口は開き戸より引き戸の方がいい」「トイレにベビーキープがついていないのが気になった」「幼児用便座があるといい」「洗面所に、手の届かない子どもが利用できるように踏み台が用意してあったのがよかった」などの意見が出された。これに対し公園側からは、「先進施設の視察などを行い、トイレなど改善できるところから、早急に取り組んでいきたい」という返事をもらった。事実、その後、多くの場所が改善されている。 次に、赤ちゃんルームの工事図面が示され、衛生面や使い勝手に関する意見を交換した。具体的には、「赤ちゃんルームには、靴を脱いで、ベビーカーを外に置いて入る設計になっているが、例えば下の子の授乳で利用する時など、上の子の靴を脱がせ、ベビーカーをたたんで入室するのは大変」「靴を脱いで入るのは大変だけれど、衛生面を考えたら土足厳禁が正解だと思う」「おむつ替えスペースは父親も利用できるけれど、授乳室は男性は入れないと思うので、その旨を分かりやすく表示してほしい」などの声が出された。公園側は、意見に応じて変更すべきところなどを内部で検討するとし、この日のウオッチングを終えた。 2回目のベビーカーでウオッチングは、園内のスイセンが見頃を迎えた2003年3月下旬に行った。正式名称「赤ちゃんルーム・授乳室」を見学し、実際に授乳やおむつ替えをするなどして気付いた点を話し合った。公園側の担当者は、「公園、そして赤ちゃんルームを設計する企業も、スタッフはほとんどが男性。議論を重ねても分からないことがいろいろとあった。今回、2度にわたり子育て中の方ならではの貴重な意見を聞くことができ、とても勉強になった。これからも利用しやすい公園づくりに向けて努力していきたい」と感想。一方、参加者(母親、父親)からは「施設ができてしまってからではなく、できる前に私たちの意見を聞いていただけるのはありがたい」「公園に出かけて、いつも困っていたのがおむつ替えと授乳。こういう施設が増えてくれたら、お出かけがもっと楽しくなって、親子でハッピーになれそう」という声を聞くことができた。 国営ひたち海浜公園に限らず、当くらぶのベビーカーでウオッチングは、毎回、和やかな雰囲気の中で行われている。実施に際しては、海浜公園だけが例外であり、3つの百貨店、アクアワールド大洗については、くらぶから話を持ちかけ、実現に至っている。ウオッチングの開催日時は、視察先の都合を最優先することはもとより、当日は、互いに自分たちの事情や要望ばかりを言い合っては、よりよい解決につながらない。育児者と視察先の担当者がともに歩み寄り、互いの意見や立場を尊重し合うことが大切だと考える。その上で、主役は子どもたちであることを忘れてはならない。

ハード面のバリア解消から心のバリア解消へ

当くらぶが目指す、「子どもを安心して育てられる社会環境の充実」は、授乳室やおむつ替えスペースの設置、段差の解消など、ハード面に限ったことではない。 例えば、くらぶが子育て中の男女を対象に行ったアンケート調査の自由回答欄には、「ベビーカーで電車に乗った時に、車掌さんがベビーカーのまま乗せていいですと言ってくれたり、降りる時に手を貸してくれて、とても嬉しかった」という声がある一方、「デパートでたまたまエレベーターに乗り合わせた人から、『昼寝の時間だろうに、ママの都合に付き合わされてかわいそう』と言われたことが、子どもが起きるのを待って外出しただけに、とても悔しかった」という声があった。 「イマドキの母親は」という言い方をされることもあるが、母親が子どもを思う気持ちは、今も昔も変わらない。 だからこそ、周囲のささいな一言に傷ついたり、励まされたりするのだ。ハード面の「バリア」だけでなく、言葉がけや気遣いなどソフト面(心)の「バリア」が解消されたとき、本当の意味での「安心して子どもを育てられる社会環境」が実現する。これからも、子どもをベビーカーに乗せて、元気にまちを歩き、いろいろなバリアをなくす働きかけをするとともに、子育ては地域と家庭とが一体となって行うものであるという視点を大事に、様々な子育て支援を展開していきたいと考えている。